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無冠の男

伊藤彰彦著「無冠の男 松方弘樹伝」を読んだ。

伊藤彰彦の本は以前に「映画の奈落 北陸代理戦争事件」を読んできたので期待値は高かったが、期待通りの内容だった。

この本でも書かれている通り、日本映画が絶頂期だった1950年代末を過ぎた1960年に映画デビューした松方弘樹は映画が華やかな時代の幻想を追いかけ続けた人生だった、といえる。さまざまなメディアの終焉を看取る形になったのは映画全盛期に「遅れてきた青年」であった松方の宿命だったのだろう。

タイトルに「無冠」とあるように俳優として、その演技が評価されることはなかったが、実録物のヤクザ映画での松方弘樹はもっと評価されてもいいのではと思う。

(個人的には最近、「県警対組織暴力」をDVDで観て、改めて松方弘樹菅原文太の芝居に感銘を受けた。もちろん深作欣二の演出もあるだろうが)

また晩年、「十三人の刺客」に出演した当時のことに触れ、「役所広司でさえ刀が走っていない」と殺陣のできる役者が絶滅しつつあることを指摘していたあたりは、若手俳優はともかくベテランの役所広司クラスはある程度殺陣ができているだろう、と思っていたので読んでいてもショックだった。松方弘樹は時代劇というメディアでも、その終焉を看取る形になったのだろうか。

それにしても、松方弘樹といいい、渡瀬恒彦といい、あれ程血気盛んだった「仁義なき戦い」の出演者たちが次々に鬼籍に入るのをみていると、さすがに年月の速さを感じる。2017年現在、主要キャストで生き残っているのは、小林旭千葉真一北大路欣也ぐらいだろうか。寂しいことだ。