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プロレス歴史観

柳澤健著作の「1984年のUWF」を読んだ。

改めて言うまでもなく、不朽の名作「1976年のアントニオ猪木」の作者によるUWF論であり、冒頭の中井祐樹の少年時代のエピソードから、最後はその中井のある言

葉で締める、という構成は心憎いばかりである。

しかし、この本には既にかなりの賛否両論がでており、個人的にも何人かの登場人物の描写にはやはり疑問を持った。

例えばジェラルド・ゴルドーの鬼畜ぶりやターザン山本銭ゲバぶりは、この本だけを読むと全く違う印象を持ってしまうかもしれない。

この本に書かれている事実は確かに真実かもしれないが、作者の「真実の編集」によって読者をミスリードするおそれがあるのでは、と感じたのである。

ただ、そういった描き方も、著者の確信犯的なものではないか、とも思う。

この本ではUWFを佐山聡を中心に描いており、これまでUWFの象徴とみなされていた前田日明には厳しい評価がされているのだが、これは司馬遼太郎新撰組を、

局長の近藤勇ではなく副長の土方歳三を中心に描いたようなもので、プロレス・格闘技に関して柳澤史観とでもいうべきものを提示したのではないだろうか。

そして著者の意図通り、今後UWFに関して書く時に、この本で打ち出された「UWFとは佐山聡である」という歴史観を無視できないのではないだろうか。

その意味でこの本は、読者一人一人にプロレス・格闘技の歴史認識を問う、リトマス試験紙あるいは踏み絵のような本なのかもしれない。